1.マンション購入後のトラブル

1-1.近隣トラブル

マンション住まいを始めると、物件説明書に書いていないことがわかってきます。
それはどういうことかと言いますと、たとえば音です。

多くの人が一つの建物の中で寄せ集まってきて生活するのですから、どうしても音が発生
します。それは仕方がないことです。問題になるのは生活騒音です。赤ちゃんの泣き声が
うるさいと言う人がいますが、ご自身だって赤ん坊のときに泣いていたはずです。騒音を
めぐって殺人事件がおこることもありますが、うるさいからと言って殺していたら無法地
帯で穏やかに暮らすことはできないでしょう。

ですからある程度は我慢しなければなりません。それから、マンションが建った後で隣に
別のマンションが建って日照に問題が発生することもあります。このような近隣トラブル
は欠陥とは言えません。

1-1-1.生活騒音

生活騒音というのは赤ちゃんの泣き声だけではありません。誰かが弾いているピアノの音
やギターの音です。あるマンションではドラムの音まであります。テレビやラジオの音に
しても自分の視聴したい番組でないと気になります。他人なら嫌悪を感じるものです。

また、ふとんを叩く音とか車の出し入れの音も気になる人がいます。
ペットの鳴き声もけっこう気になります。それは普通に感じることでおかしいことではあ
りません。誰でも静かに生活したいものですから、同情します。

1-1-2.日照の問題

販売する不動産業者の社員からいろいろと重要なことについて説明を受け、マンションが
建った後で、隣に別のマンションが建って日照に問題が発生することがあります。そうす
ると、事前の説明とは違うことになりますから、景観や見晴らしのいい要件が崩れること
になります。販売する不動産業者の社員が、契約してもらいがためにうそで、絶対周りに
高層マンションは建たないと言った場合、問題になることがあります。断定的な判断を提
供する行為は禁止されているのです。

また、誇大広告など著しく事実に相違する表示は禁止されています。
このようなことは当然のことですね。たとえば、鉄骨造のマンションが欲しいのに木造の
ものを提供することを買主は望んでいないのです。

日照は重要なポイントです。
日当たりがいいと、気分がいいですし、照明や乾燥機にいる電気代が節約できます。

1-1-3.その他のトラブル

宗教団体の集会所のようなスペースがあると、静かでいられないことが問題になることが
あります。反社会的団体の構成員の住むマンションでも問題になることがあります。

これまでマンションに住む人のことを中心に取り上げてきました。
それ以外の問題は以下に取り上げることにします。

2.欠陥マンション

これまで生活騒音と日照の問題について取り上げましたが、マンション購入後のトラブル
はまだあります。これらは建物や土地に関する瑕疵についてです。
欠陥には目に見えるものとそうでないものがあります。

2-1.瑕疵

欠陥とは瑕疵があることです。窓がちゃんと閉まらないとか、壁にひびが入っている。
建物が傾いているというようなことです。

2-1-1.雨漏り

何十年も経過していると、雨漏りしない建物はほとんどないのではないでしょうか。
経年劣化や、記録的な大雨などが原因なのです。でも新築の段階で雨漏りだと欠陥です。
そうであれば作った人に責任があります。

2-1-2.傾き

床に球を置くと、どうしても部屋の端の方にいくということはないでしょうか。それは
水平でないのです。糸におもりを吊るし、柱の線と平行になるか調べてみることもいいで
す。これらは素人でも調べられますので、心配されている方は実際にやってみてください。

大雨で堤防が決壊したり、地震により土地が液状化することがあります。マンホールが
飛び出てきたり、家が傾いたりすることがあります。

2-2.表面化していない欠陥

欠陥には表に現れるものばかりではありません。表面化していない欠陥もあるのです。
当然素人がわかるものではありません。専門家でもいろいろ検査しないとわからないこと
が多いです。

2-2-1.かび

ほこりなどは吸い取り、他も掃除したのにどうも咳が出るとか、気管支ぜんそくになった
という人は、壁にかびがないかチェックすることをお勧めします。雨漏りや結露でかびが
生えている可能性があるからです。これはすべてが欠陥ということではありません。
しかし、新築の時からそうだと欠陥の可能性が高いです。

2-2-2.地震に起因するもの

強い地震(やや強い地震)が起こり、家屋が倒れたり半壊しなくてもどこかが壊れているこ
ともあります。土地が軟弱な地層の上にあったり、昔池や湖だったりすると、埋め立てて
も液状化したりします。ですから、建物の建設時にあった欠陥(瑕疵)なのか判断でこいな
いこともあります。

2-2-3.杭打ちデータの使い回し

以前、杭打ちデータの使い回しなどが発覚して、社会問題になったことがありました。
一部の業者だけでなく、全国で見つかりましたから大騒動になりました。地下の基礎部分
についてですから、専門家でも見た目では判断できないことがあります。他のマンション
の正常なデータをコピペした(コピーアンドペースト)ようです。

そう言われても素人ではわかりません。新築住宅の買主は、建設会社や販売会社の名前と
いった表面化している一部分を信用して買っているのです。ですから関係者は誠実に、
その信用に真面目に応えるような仕事をして欲しいです。

2-2-4.その他の問題

他にどういうものがあるでしょうか。コンクリートに混入してはいけないものが混ざって
鉄筋が錆びてしまったとか、構造計算でうそがあったというケースも実際にありました。
前者では耐久性に問題が生じますし、後者では地震がおきたときに崩れてしまう恐れが出
てきます。免震建築物と言いながら、実際はその機能が乏しかったなどという事例も報道
されたことがあります。

またマンションの構造自体は何の問題もないのですが、崖の傍にあるために崖崩れで生き
埋めになる危険性が生じていることもあるでしょう。そういう場合、低層階の人は困りま
す。深夜に寝ていたら逃げようがありませんからね。

それから沿岸地域や川沿いの建物の場合、浸食により土地が滅失することもあります。
滅失とはなくなるということです。これは作り話ではありません。実際に起こったことが
あります。何の対策も立てていない場合、作って販売した人の責任は大きいです。
山を切り開いて作った土地の場合、地滑りをしないかチェックする必要があります。
大雨が降り続いて土石流により多数の死傷者が出たことがあるのです。そのような問題が
ありますので、建物だけでなく、土地や地盤も調べておくのがいい買主と言えます。

3.救済措置

これまでマンション購入後のトラブルや考えられる問題について取り上げてきました。
では救済措置はどのようなものがあるのでしょうか。生活騒音の場合、楽器の音はサイレ
ンスにできるものが販売されていますから、それに変えてもらうようお願いするのがいい
です。

3-1.法律上の救済

加害者の行為によるトラブルの場合、害を発生させている人に会い、話し合いで解決する
のが一番早い解決策です。でもその人が害を出していると思っていない場合があります。
我が国は法の支配により社会が成り立っています。ですからそういうときは法律に解決策
がないか調べるといいです。もちろん、法律の専門家である弁護士や司法書士に依頼する
のもいいです。犯罪である不法行為の場合は警察に頼りましょう。

3-1-1.民法上の救済

買主が瑕疵のないもの、ここではマンションですね。それを買おうとしている場合、売主
は買主の言う瑕疵のないマンションを提供するのが売買契約の売主の義務です。そういう
約束なのですから、約束を守らなかったらどうなるかルールが必要です。
その社会の基本的ルールを民法では定めています。

民法では569条などで売主の瑕疵担保責任を規定しています。
売主の瑕疵担保責任とは、瑕疵が見つかったときにどのように処理するか責任を明らかに
するものです。われわれの社会では、契約は私的自治の原則により、原則として、契約は
自由に締結することができます。ですから担保責任を負わない旨の特約もつけることがで
きます。ですが、民法572条には「担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、
知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利
については、その責任を免れることができない。」と書かれています。
つまり、売主は瑕疵があることを知っていた場合は責任をとらされることがありますよ、
ということです。

売主が目的物を引き渡したが、約束した契約とは違っていたというケースがあります。
民法では売買の目的である権利の一部が他人のもののため、売主がこれを買主に移転する
ことができないときは、買主は、その不足する部分についての代金の減額を請求すること
ができるとしています(同法563条1項)。つまり、約束通り全部を所有できなくなる場合で
す。それから、契約の解除(同法563条2項など)と損害賠償(同法563条3項など)ができると
規定しています。なお、地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合の
契約の解除と損害賠償(同法566条)はここでは取り上げません。

3-1-2.特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律上の救済

特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律があります。長い名前の法律です。
新築住宅に関する紛争の処理体制等について定めています。要するに、建設業者と宅地建
物取引業者にある程度の担保を出させるというものです。具体的には、建設業者による住
宅建設瑕疵担保保証金の供託、販売する宅地建物取引業者による住宅販売瑕疵担保保証金
の供託などです。これらの業者は住宅瑕疵担保責任保険契約に加入するのでもいいです。
建設業者や宅地建物取引業者が保険料を支払うのであって、新築住宅の買主が保険料を支
払うのではありません。支払われる場合は、保険金額が二千万円以上でなければなりませ
ん(同法2条5項3号、同法2条6項3号)。

住宅瑕疵担保責任保険契約について捕捉しておきます。建設業者は「住宅建設瑕疵担保責
任保険契約」で、販売する宅地建物取引業者は「住宅販売瑕疵担保責任保険契約」です。
この法律の目的は新築住宅の買主の利益の保護なのです。以前、新築の建売で欠陥(瑕疵)
があったので新築住宅の買主が何とかしてくれよと建売業者に要求したのですが、倒産し
てしまって大きな被害を出したということがあったのです。

3-1-3.住宅の品質確保の促進等に関する法律上の救済

住宅の品質確保の促進等に関する法律があります。これも長い名前の法律です。
この法律では、住宅購入者等の利益の保護が目的の一つです。専門家で業者である相手が
買主の言い分を聞かなかったり、責任を認めないことがあり、紛争に発展してしまうこと
があります。そういう住宅に係る紛争の処理体制についてこの法律で関係時効を定めてい
ます。

国土交通大臣は紛争処理の業務を行う指定住宅紛争処理機関を指定できます(同法66条)。
また、国土交通大臣は、指定住宅紛争処理機関の行う紛争処理の業務の支援その他住宅購
入者等の利益の保護及び住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決を図る「住宅紛争処理支援
センター」を指定できます(同法82条)。この法律の中で瑕疵のあるマンションを所有して
しまった買主に重要な部分が「瑕疵担保責任の特例」です。94条1項です。「請負人は、
注文者に引き渡した時から10年間、住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防
止する部分として政令で定めるものの瑕疵(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを
除く)について、民法634条1項及び2項前段に規定する担保の責任を負う。」(抜粋)

つまり、上記の重要な部分について、作った人は10年間責任を持ちなさいよ、ということ
なのです。民法634条1項及び2項は、請負人の担保責任についての規定です。住宅の品質
確保の促進等に関する法律は民法よりも明確に定めているのです。

3-1-4.建物の区分所有等に関する法律上の救済

建物の区分所有等に関する法律は、マンションの住民にとってとても重要な法律です。
マンションでは多くの人が生活していますから、ときにはルールを守らない人が出てくる
ことも考えられます。もちろん、マンションにルールを守らない人が必ずいるわけではあ
りません。ルールを守らない人が出たときは、同法57条では共同の利益に反する行為をや
めるよう停止等の請求ができると定めています。このようなとき、話し合いで解決しない
こともあります。

そんなときは訴訟を提起することもできます。そのためには、集会の決議によらなければ
ならないことになっています(同法57条2項)。共同生活上の障害が著しいようなときには、
集会の決議に基づき、訴えを提起することで使用禁止にすることもできます。使用禁止の
請求です(同法58条)。
区分所有者の共同生活上の障害を除去しようとしてもできない場合、区分所有権の競売の
請求をすることもできます(同法59条)。

4.まとめ

これまで入居後の欠陥によるトラブルを取り上げてきました。欠陥かそうでないかは重要
です。解決方法も違ってきます。ですからそのどちらも取り上げました。マンション購入
後のトラブルには、近隣トラブルとして生活騒音や日照の問題があることを知りました。

その他のトラブルではいろんな人がいることもわかりました。欠陥マンションのところで
は、瑕疵には雨漏りや傾きがあり、表面化していない欠陥には、かびや地震に起因するも
の、杭打ちデータの使い回しなどの人的要因があることも知りました。

そして、一番気がかりな救済措置ですが、法律上の救済として、民法、特定住宅瑕疵担保
責任の履行の確保等に関する法律、住宅の品質確保の促進等に関する法律上の救済、建物
の区分所有等に関する法律といった法律の中で救済方法があることがわかりました。

このように入居後の欠陥によるトラブルについて知ることで、心配していたことが解決で
きるとわかっていただけたと思います。

よく請負人には元請けと下請け、孫請けなどの多くの関係者がいます。欠陥マンションが
あるのなら、責任逃れをする前によく調べて何が原因だったのか明らかにするべきです。
それは住民の生活があるからです。深刻な場合は命に危険が及ぶかもしれません。ですか
ら直ちに原因究明を行い、解決策を提示する責任が作った人にあります。

入居後の欠陥によるトラブルについての記事はいかがだったでしょうか。
少しでも参考になれば幸いです。